共有不動産に関する物権法改正④(所在等不明共有者の持分の譲渡制度)

弁護士の三田村です。

コラム③「所在等不明共有者の持分取得」制度に加え、改正民法では所在等不明共有者の持分の譲渡制度が創設されます(改正民法262条の3、改正非訟事件手続法88条)。

今回は、所在等不明共有者の持分の譲渡制度について解説します。

共有不動産において、他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に所在等不明共有者以外の共有者全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する裁判をすることができる制度です(改正民法262条の3)。

イメージしにくいと思うので、図で示すと下記のようになります。

所在等不明共有者であるAと他の共有者B、C、Dがいるとします。

例えば、当該共有不動産を第三者に売却しようと考えたとき、本来であれば、Aも含めた全員の同意がなければ、売却はできません。

本制度は、例えば、共有者であるBが所在等不明共有者A以外の共有者全員、つまり、B、C、Dが当該共有不動産をEに売却することを条件として、Bに所在等不明共有者Aの持分をEに売却する権限を与える裁判ができる制度であり、これにより、当該共有不動産を第三者に売却することができます。

所在等不明共有者Aは、Eに売却した時点で不動産の時価相当額をAの持分に応じて按分して得た額の支払請求権を取得します(改正民法262条の3第3項)。なお、所在等不明共有者の当該時価相当額請求権を実質的に担保するため、裁判所は、当該持分の譲渡権限の付与を請求した共有者に対して、一定の期間内に裁判所の定める金額を供託することを命じなければならないとされています(改正非訟事件手続き法88条2項、同法87条5項)。

本制度によって、所在不明者のいる共有不動産を処分することが容易になると一般的に説明されています。

ただし、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共有相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)においては、相続開始の時から10年を経過していることが必要となります(改正民法262の3第2項)。

長期間にわたり譲渡(売却など)がされない事態を防ぐため、所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後2か月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失う(なお、裁判所において伸長することができますが、それほど間をおかずに譲渡ができる場合に限られると考えられています。)とされています(非訟事件手続法88条第3項)。そのため、速やかに売却の手続をとる必要があり、購入者の目途が立った段階であれば、所在等不明共有者の持分の譲渡制度を活用することになりそうです。

【まとめ】

所在等不明共有者の持分譲渡制度については、所在等不明共有者がいる場合に、購入者の目途がたっておれば、共有者が所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与する旨の裁判を求め、購入予定者に売却することにより、所在等不明共有者のいる不動産の処分を容易にする制度となります。

今後どの程度利用されるようになるかに注目です。

《参考条文》

改正民法262条の3

1 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。

2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共有相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。

3 第1項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。

4 前3項の規定は、不動産の使用又は収益する権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

改正非訟事件手続法88条

1 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判(民法262条の3第1項(同条第4項において準用する場合を含む。第3項に同じ。)の規定による所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判をいう。第3項において同じ。)に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 前条第2項第1号、第2号及び第4号並びに第5項から第10項までの規定は、前項の事件について準用する。

3 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後2箇月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者(民法262条の3第1項に規定する所在等不明共有者という。)の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。

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